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スエズ運河における大型コンテナ船「エバーギブン」の座礁事故について

 

連日報道されている24,000TEU積みという世界最大級のコンテナ船「エバーギブン」号がスエズ運河の途中で(報道によれば強風にあおられて)航路を逸脱して運河の外延部に座礁し船の向きが運河を塞ぐ形となったため、運河が閉塞されて他の船の航行が不可能となった。24,000TEUとは最も標準的なコンテナサイズが20フィートであり、TEUTwenty Feet equivalent unitの略で、20フィートのコンテナバンであれば2万4千個積めるという意味である。一度により多数のコンテナを運ぶことができると1コンテナ当たりの運賃が安くなり、荷主は低運賃のメリットを受けるため、コンテナ船の大型化はここ10年いっきに進んできた。以前は数千個TEUが最大であったものが、一万個積み、一万二千個積みと大型化が進みついに2万個を超えるに至っている。「エバーギブン」の写真でもあきらかなように、コンテナ船は船体のかなり上の方までバンを重ねて積むため、風の影響を受けやすい。外洋であれば多少風によって航路がずれてもすぐに座礁や障害物との接触が起こるわけではないが、運河の場合おのずと航行可能航路が限られかつ大型船は喫水(水面下の船体部分)も深いため、その深さが十分にある航路を外れると座礁に至る事になる。本船は、今治造船の関連会社として知られる正栄汽船株式会社傘下の海外子会社が所有権を保有し、世界有数のコンテナ海上運送会社である「エバーグリーン」社(長栄海運)に定期用船に出されているものとみられる。定期用船の場合、船舶所有者(船主)は、自らもしくは自らの下請けとして管理会社を起用して船員を雇用し、船舶の航行や維持管理を行う。定期用船者は船の行く場所を決めて指示し、どこの港で何を積んで、どこの港で何を卸すかを船主に指示する。定期用船という概念は海運以外では馴染みが薄いが、学校が修学旅行のために観光バスをチャーターするのと類似している。バスの運行や安全は観光バス会社の責任であり、学校は生徒を乗せ、行先とスケジュールを予め運航バス会社に指定してバスのチャーター料を支払う。今回の座礁はいわば観光バスが歩道に乗り上げたようなものであるから、本件では定期用船者には原則として責任がない。エバーグリーン社が責任は船主側が負い、自社には責任もないと主張しているのはそれ故、一般論として間違っていない。

但し、定期用船社側には何等かの落度、例えば積載する各コンテナ内容物の重量などについて誤った情報を船主に通知しその結果船主が積み付けに際して行われる船舶のバランス計算を誤って船が安定性に脆弱性が生じたなどの場合には定期用船者の責任の問題が生ずる。又、定期用船者は当該船舶が安全に寄港できる港を指定しなければならず、当該船舶が入港時に安全でない港(unsafe port)への入港を指示して船舶に事故が生じた場合には定期用船者の責任の問題が同じく生ずる。スエズ運河自体は港ではないので、直ちにこの理論が適用されるわけではない。報道によればスエズ運河庁は当初遅延による逸失通行料として日本円で約100億円損害が生じたとして、これを船主に請求する意向を示し、さらに本船を離礁させるための費用として1000億円超の費用がかかったと主張するに至っている。

船舶を離礁させるためには、船舶と運河の乗り上げた部分の運河の施設を壊すなどして除去したり、あるいは土砂を除去するなどの作業が必要であり、これは、離礁のために行われる限りはSalvage作業であって、船主に請求できる。但し、上記のような巨額の費用がかかるかどうかは別問題である。工事には離礁のための工事と運河の復旧のための工事があると思われ、運河の復旧の方の工事はSalvage工事とは異なる。船舶所有者の責任については、海上運送が本来的に高い危険を持つものであり、その責任を専ら船主に負わせるのは、海上運送事業者に過度の負担を課し、そのような事業を営む者がいなくなったり、運賃が極めて高額になったりなるなどの弊害がありうることに鑑み、責任を制限し損害を関係者で痛み分けにする制度が確立している。エジプトが加盟している船主責任条約によると、本船の船主責任制限額は日本円で三十数億円とみられ、他方日本が批准している改訂後の船主責任条約によれば、百二十数億円になるとみられる。船主責任制限によって船主の責任が制限される債権は、すべての債権ではなく、海運リスクから直接生じた債権が対象となる。従って融資債権や事故の結果定期用船者のreputationが下がったなどの損害は制限の対象とならない。これは運送に本来的に伴なう海事危険は船主のみに負担させるのは海事産業維持発展のために好ましくないという政策判断からきているため、その範囲に入る債権が制限されるのである。

他方、船主が自らの船を座礁から救い出すSalvageの費用は船主が自ら負担するものであり、これを第三者(スエズ運河庁)が代わりに行って請求したとしても、この費用は船主責任の制限にはかからないと考えるのが一般である。又、Salvage費用は本船について抵当権に優先する先取特権を構成するのが、世界各国でほぼ共通した海事法制であり、エジプト法でも同様であろう。スエズ運河庁がどのような方針で今後望むかは不明であるが、Salvage費用を負担した場合にエジプトの裁判所の管轄が及ぶ場所で本船をArrestすることが考えられる。船主はエジプトの裁判所に船主責任制限の申立てをすることは当然ありうる。Salvage費用については船主の保険でカバーされるのが原則である。一方、第三者に与えた損害については、PI保険でカバーされるのが原則である。本船の価値以上にSalvage費用をかけた場合にそれが本船のSalvageとしては意味がなく、運河の再開のための費用ではないかとみる見解があるであろう。

又、船主は共同海損(general average)を宣言した。これは、例えば相当数のコンテナを本船から降ろしたため、降ろされたコンテナはダメージが生じたり、更なる遅延が生じるなど損害を被り、残されたコンテナはそのような損害が生じないなど、一部の降ろされたコンテナの犠牲で船が離礁できたなど、損失のみを受ける当事者と利得を受ける当事者に不公平があるため、これを船舶と積み荷にそれぞれの価値に応じて平等に負担させようとする制度である。以上のように、本船の事故を巡っては様々な法律問題が生じ、係争も予想され、最終的な決着には相当な期間を要するものとみられる。

 

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